「あなたはいつもどこで勉強していますか?」自宅ですか?カフェですか?それとも図書館?
もしあなたがこの問いに“すぐに”答えられたとしたら、脳科学的に非常に効率の悪い勉強をしている可能性があります。
細かい勉強法以前に勉強場所だけで記憶力に大きな差が生まれるからです。
目次
学習環境が成績に与える影響の過去の有名な研究
今から30年も昔に学習環境に関する研究が発表されています。
1978年、スティーヴン・スミスとロバート・ビョーク、アーサー・グレンバーグ(ミシガン大学)の研究で、学生2グループに、同じ単語(「ball」や「fork」などの4文字からなる40の単語)を、同じ順番で、同じ時間(10分の学習時間を数時間あけて2回)をかけて覚えさせた。
ただし、グループAは2回とも同じ環境で、グループBは異なる環境が設定された。
3時間後、学生たちを全く違う別の部屋に移し、10分の制限時間を与え、覚えた単語をできるだけたくさん思いだして書く課題を与えた。
2回とも同じ部屋で勉強したグループは、40単語のうち平均16個思いだした。
勉強する部屋が変わった学生は、平均24個思いだした。
単純に勉強する場所を変えただけで、思いだす数が40パーセント以上増えた。
この研究から逆に言えることは、
勉強する部屋が変わった学生よりも、勉強する部屋が同じだった学生の方が記憶力が低下しているということです。
なぜ学習環境が変わるだけで成績が良くなるのか
これを紐解くためには、そもそも記憶とはどのようなプロセスに細分化できるのかを知っておく必要があります。
記憶の3プロセス
記憶には大きく分けて、
1.記銘(Registration)
2.保持(Retention)
3.想起(Recall)
の3プロセスがあります。
記銘(きめい) … 物を覚える事
まず記憶の1つ目が「記銘」であり、
物を覚える事を専門用語で記銘(きめい)といいます。
新しい情報を覚えようとするときのことです。
例えば、知らない単語を覚えようとするときなどです。
この記銘された情報は短期記憶となります。
保持 … 情報を長期記憶に留保する
記憶の2つ目のステップが、覚えた情報を長期記憶に留保する「保持(ほじ)」です。
せっかく学習しても人はすぐに忘れてしまうので、覚えたものを保持する必要があります。
短期記憶に記銘された記憶は15秒〜数十秒で消えてしまいます。
そこで忘れないように、覚える事を思い浮かべたり、暗唱したりします。
このように脳を繰り返し刺激すると、新しい神経回路を作り、短期記憶が長期記憶へと変化します。
想起(そうき) … 保持した情報思い出す
そして最後のステップが、必要な時にその情報を思い出す「想起(そうき)」です。
覚える工夫をしたり、何度も思い出す事を繰り返せば、神経回路はより太くなるため、より思い出しやすくなります。
このように、記憶は記銘、保持、想起というこの三つで成り立っています。
人の記憶は背景情報(場所など)に依存しやすい
例えば、こんな経験はありませんか?
お風呂に入っていてシャンプーを切らしてしまったとします。
お風呂から出たら詰め替えようと思っていたのに、いざお風呂から出ると忘れてしまう・・・。
トイレの中で思いついたアイデアが、トイレから出たとたんに忘れてしまう・・・。
人は無意識のうちに、「記名」や「保持」の段階で背景情報(周りの環境)まで記憶してしまいます。
このため、「想起」の際、背景情報(場所など)が違うと思い出すためのきっかけが少なくなり、思い出しづらくなるのです。
先の実験の考察
では冒頭の実験において勉強場所を変えるとなぜ成績が良かったのでしょうか。
2回とも同じ場所で勉強したグループは、背景情報が固定されてしまっています。
このため、試験の際に背景情報が変わり、思い出すきっかけとなる情報が減ったと考えられます。
それに対し、場所を変えて勉強したグループは、2度の勉強において背景情報が変わっています。
このため、背景情報に依存しにくい記憶が形成され、「想起」しやすくなったと考えられます。
勉強場所には変化をつけよう
試験本番って、いつも勉強する場所とは違う場所ですよね?
だとすれば、せっかく単語を覚えても、同じ場所でばかり勉強していたら、その場所以外では思い出しづらくなります。
最善の策は、勉強する場所を2か所以上決めておき、日によって変えることです。
知らないうちに勉強の効率が落ちていると思うともったいないです。
今後はぜひ意識してみてください。
参考までに。先の実験の続き
その後のカンファレンスにおいて、デジタル化した環境変化についての実験についての研究発表があった。内容は以下の通り。
被験者を2グループに分ける。
そして、一方にはスワヒリ語の単語20個を、10分ずつ5回の学習時間で覚えてもらう。 単語は1個ずつスクリーンに映しだされ、その背景に同じ映像(駅の風景など)が無音で映っている。 これにより「同じ環境」という条件が生まれる。
もう一方のグループも勉強する単語や学習時間は同じだが、背景の映像が5回の学習時間でそれぞれ違う(雨嵐、駅、砂漠、交通渋滞、居間)。 視覚の情報は異なるが、それ以外の違いは一切ない。
ところが、2日後にその単語のテストを実施すると、背景が変わったグループのほうが点数が高く、彼らが平均16個のスワヒリ語を思いだしたのに対し、背景がずっと同じだったグループは9個か10個しか思いだせなかった。
つまり、デジタルにおける背景が違うだけでも同様の効果があったということです。
この研究結果に基づき、「脳TEC」では背景情報が問題ごとにランダムに切り変わるWebドリルを導入しています。詳細は以下にて。
<参考>
Steven M. SmithArthur GlenbergRobert A. Bjork , “Environmental context and human memory” Memory & Cognition(1978), 6-4(342–53)